水戸部から「I am a yellow」という今回の個展のタイトルを聞いたとき、真っ先にこの(ある意味では水戸部の絵具の使い方とは真逆な)レオニの絵本が頭に浮かんだ。同書は、レオニ本人の意図はともかく、減法混色の平易な解説としても読めるし、肌の色の違いなどに基づく人種概念に起因する差別についての物語という解釈も許容する。18世紀後半、市民階級にまで広く普及した旅行による観察を裏付けようと、顔のパーツの配置から性格や感情を読み取る疑似科学(観相学)が、人種概念を容れはじめる。そのときに重視されたのは、額から上唇へと伸びる横顔の稜線のかたちであった。 画家=鑑賞者と向き合うモデルの肖像画は、ふつう横顔を持たない。だが、水戸部の肖像画はそうではない。アメリカのポップ・スターやセレブリティの整った「理想的な」顔が、柔らかな絵具の頭骨と、鮮やかな色の肌によって置きかえられていく。横顔の稜線は、いつしか絵具の波でかき消されている。