デヴィッド・ボウイ、エルヴィス・プレスリーなど、往年のロックスターの姿を過剰な厚塗りで描いた「Rock is Dead」は、近年、日本でも囁かれるアートバブルへの水戸部の複雑な思いから生まれたシリーズです。アート作品が単なるインテリアやファッションアイテムのように売買されるその状況に対して水戸部が参照したのが、やはり一種の商品化や一般化と、そこから逃れる拡張や実験を繰り返してきたロックンロールの歴史でした。
2021年に開催されたシリーズ第1弾「Rock is Dead」展(biscuit gallery)では、今回も展示されるディビッド・ボウイをはじめ、創造と消費の間の葛藤を生きた数々のスターの肖像を展示。今年6月の第2弾「War is not over」展(void+)では、「WAR IS OVER!」の標語を掲げたオノ・ヨーコとジョン・レノン、ビートルズをモチーフとしつつ、現下のロシアによるウクライナ侵攻を受け、「戦争は終わっていない。現実を見よう」と、表現の世界と悲惨な現実のギャップに光を当てました。
これに続く第3弾の今回は、アートや表現が持つ「夢を見る力」に再び注目。オノ・ヨーコの1974年の楽曲「夢をもとう(LET’S HAVE A DREAM)」をタイトルに引き、理想の世界や未来に向けての希望を立ち上げる、アートの可能性にフォーカスします。
会場には過去のシリーズ作品に加え、ギターを破壊する直前の瞬間を捉えたパンクバンド「ザ・クラッシュ」の1979年のアルバム『LONDON CALLING』のジャケットのその後を描いたような《After Breking The Guitar》、オノ・ヨーコに関わる言葉やレコードを描いた作品群、子ども用ベッドを素材にした《Love & Peace》などの新作が並びます。ジョンとヨーコの有名な「ベッド・イン」パフォーマンスを連想させるベッド作品について、水戸部は「子どもには希望を感じる」と話し、絵画とベッドがともに幻想や夢を見せる装置であることを指摘します。さらに本展では、水戸部が機器メーカー「RICOH」と組んで制作した、特殊な印刷技術による2.5次元的な立体感を持った版画作品も発表します。