2020年|H―C≡N

2020.10.01

コロナパンデミックは、人類にとって脅威な存在である。医学や公衆衛生が発達したとしても、人間が病気と必死に闘うように、彼らもまた薬剤に対する耐性を獲得し、強い毒性を持つなど進化を遂げてきたのだ。
人生をふりかえってみて、この世界的なパンデミックの体験は、初めてかもしれない。でも、時事的な問題は日々起こっているのだが、ニュースを見ている分には間接的であったり、離れた地域であったりして、自己の問題として遠い事柄に感じられ、私は世界の外側にいるようであった。
しかし、世界中が共通のパンデミックの渦中に巻き込まれてしまった状況で、人物画を描いてきた自分にとっては、人との接触ができない状況が意識を大きく変えるきっかけとなった。
それから私は海外のSNSから流れるニュースに夢中になった。
人々が家に籠もり、野生の山羊が町に溢れた状況など、人間がいなくなり動物達が自由に暮らすニュースが特に目を引いた。今まで描いたことのない動物などをドローイングも描いた。私は、人との接触がなくなったことで、今まで同様に人を描くことを不自然に感じ、自然とこれまで描いたことのないモチーフを描ていた。
思い起こせば、私は幼い頃、絵本が好きだった。そういった童話の中で共感する設定というのがある。それは人間と動物は対等な存在である事だ。
そして、程なくしてアメリカでBLM運動が起こった。
今作は、世界のニュースの中で登場する出来事、トピックスを絵日記に起こしながら、描いた新作である。様々な色味を帯びながら、形を抱えながら、この二次元のルポルタージュが国境を越えていくように願っている。

水戸部七絵

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個展「H―C≡N」(TOKYO INTERNATIONAL GALLERY、東京、2020年)に寄せて

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